設計する際、私たちは「居心地の良さ」を何よりも大切にしています。
光の入り方 風の通り道 空間の広がり 視線の抜け それらの中に「静けさ」を含ませれるか。
これらの要素が、見た目以上に重要です。検索すれば出てくるスタイリッシュな空間も素晴らしいですが、僕が常に考えていることは、住まう人の生活と心に深く関わる空間づくりです。
例えば、窓から見える景色や、気温ではなく空間の温度、静けさのバランスが調和してこそ、心地よさが生まれます。心地よい風が吹き抜けるリビングで、朝のコーヒーを楽しむ、昼下がりには家族と一緒にゆっくりと過ごす。このような「日常」が心から豊かに感じられる空間こそが、本当の意味での「豊かな家」だと考えています。


見た目やデザインはもちろん大切ですが、家における「豊かさ」は、見た目以上に「その空間でどれだけ心が満たされるか」に依存している。僕が考えているおうちは決して派手ではありません。(求められれば派手にできます!)しかし、そこで暮らす人が日々そこに居ることで温かくなるような、そんな家を目指しています。
いかにも明るくて新築!なおうちが美しく見えることは間違いないですが、それが長く快適に、心から安らげる空間となるかどうかは、見た目だけでは判断できません。豊かな暮らしを生み出すおうちとは、住む人々がその空間で心からくつろぎ、穏やかな時間を過ごせる場所。そんな空間であってほしいと想いながら設計に勤しんでいます。
そういった空間を目指しながら、細部こそ目を細めて考えます。外観や大きな空間のレイアウト、家具の配置に目を奪われがちですが、実はおうちの使い勝手や居心地を左右するのは、日々の動線や引き出しの大きさ、棚の高さなど、ほんの小さな部分にあると思います。これらの細かい部分がうまく設計されていないと、住んでいる人の暮らしに不便や小さなストレスが溜まることになり気持ちが落ちてきてしまいます。
たくさんのお施主さんに出会って思うことは、人それぞれ使い方が少しづつ違っているということ。
もちろん、スムーズな動線は暮らしを快適にしてくれます。
でも、動線ばかりを優先していくと、
なんだか「機能的な建物」にはなっても、
「気持ちよく暮らせる空間」からは少し離れていくようにも思うのです。
例えば、洗面所とランドリールームとファミリークロークが一直線に並んでいて、
脱いで → 洗って → 干して → しまえる、
みたいなプランは“動線的”には理想的です。
でも、それって本当にその家族にとって気持ちがいい動きでしょうか?
ある家族にとっては、
洗面所の窓から見える朝の光が何よりも大切だったりする。
洗濯物を干す時間を「ちょっとした気分転換」としている人もいる。
子どもが寝室からリビングに向かって駆けていく、その途中の“抜け感”が好きだったりもする。

僕が大切にしているのは
「動線が良いかどうか」は必ず守ったうえで、
“動きの中にある気持ち”がどうなるか なんです。
どこでホっと息をつけるか。どこで空が見えるか。
どうすれば、疲れた日に自然と灯りの下に座りたくなるか。
その家で生まれる「気持ちの余白」や「感情の流れ」を、
丁寧に設計したいと思っています。
図面で見たときに「少し遠回りかな?」と思う動線が、
実際には2、3歩の話であって“ちょうどいい”リズムになるかもしれません。
むしろ、ちょっとした揺らぎが、そのおうちらしさになる。
そのおうちでどんなふうに息を吸って、どのように暮らしていくか、
それをちゃんと想像することから設計をはじめたいと思っています。

