一緒に考える

一緒に考える:アトリエ永日

現在、実施図面作業中の案件が3件、さらに1件は金額調整の真っ最中です。
図面を描くとき僕の頭の中はいつも、お施主さんがどう生活するだろうかという妄想でいっぱいです。


たとえば、「ここに重たいものを置きたいとおっしゃっていたから、床付近がいいかな?いや、腰をかがめずに置ける高さのほうが、日常的には楽じゃないかな?」
「せっかちな方だから、曲がり角で壁に手をつくかもしれない。それなら塗装のままじゃなくて木を張った方が汚れにくく長持ちするかな…」

空間の作り方


こういう小さな妄想の積み重ねが、実施図面に反映されていきます。
そして、実施図面を描いていると必ず出てくるのが「これは施主に相談しないと分からないなぁ」というポイント。だから、まずは雛形を描き、そこからオリジナルに深く進んでいく。
毎回こういったプロセスを踏みながら進んでいくことになります。


平面図で検討している段階では、お施主さんはどうしても“平面的”にしか脳が働きません。
でも、実際に暮らすのは立体的に立ち上がった空間です。
平面上では、つい「線をそろえる」「形をまとめる」ことが正義のように感じますが、実は、そろえなくても美しい空間はいくらでもあります。

こうした感覚的な部分は、設計者が説明しながら一緒に検討する必要があります。
ところがSNSやネットでは、「揃えることこそ正しい」という乱雑な情報が溢れているのが現実。
その一言に惑わされてしまうと、本当の意味で豊かな空間づくりが遠のいてしまいます。

SNSを開くと素敵な家の写真が溢れかえっています。「これはいいの?悪いの?」といった議論も盛んで、時には激しい論争にまで発展しています。

さらに最近は、AIの性能が上がり、こちらの興味・関心に基づいて情報が勝手に流れ込んでくる時代になりました。便利なようでいて、必要以上の情報が目に飛び込んでくる。
僕自身、あまりに乱雑な情報を見続けると気持ちが崩れてしまうくらい繊細な心を持っているので(笑)、ときにはSNSを閉じることも大切だと感じています。情報を制限することは、自分を守ることでもあります。



大事だと思うのは、「何を信じるか」ということ。
SNSのコメントやネット記事は、誰も責任を取らない世界です。時に間違った情報や、専門家ではない人の意見が「正解」のように広がってしまうこともあります。
一方で、僕と一緒に家づくりを進めてくれているお施主さんたちは、情報を「参考程度」にとどめて、僕と向き合ってくれている。これは本当にありがたいことです。もちろんそのことについても一緒に悩み、一緒に決める。それこそが安心できる家づくりだと思います。



僕も一事業主として営業しなければなりません。だから、完成した家の写真を撮り、HPやSNSに載せています。でも、それはお施主さんにとっては生活の場であって、、、だから「どこまで見せるか」は毎回悩みます。
内部写真は比較的気を遣いませんが、外観では背景に目印になるものが写っていないかなど、細心の注意を払います。よくネットで間取りを公開している方もいますが、僕にはそれはできません。
なぜなら、間取りはそのおうちの生活であり、極めてパーソナルな情報だからです。そこには防犯上のリスクもあるし、プライバシーを守ることも、設計者としての大切な責任だと思っています。


営業的には、間取りを載せた方が人目を引けるし、「こういう暮らし方ができますよ!」とアピールするのは有効です。でも、それをしてしまうと、僕が大切にしている「信頼関係」や「倫理観」を損なってしまう。載せるにしても信頼関係がしっかりしていて、許可も頂いてる場合に限ります。


住宅と違い、店舗であれば写真を多く載せることは、営業に直結します。だから「どんどん見せる」ことが正解の場合もあります。
でも、住宅はその人と家族のプライベート空間。そこには配慮と線引きが必要です。建築写真を撮るときは、家具の配置や背景、ちょっとした物の映り込みまで意識します。


情報が乱雑に氾濫している時代、AIが選んだ「正解」が毎日のように目に飛び込んできます。でも、本当に大事なのは、一緒に考え、一緒に同じ方向を向いてつくることだと思います。
少し時間がかかるかもしれないですが、こうなった理由はこうだからと、たくさんの検討したうえでの完成となれば、生活が始まってからの納得感というか、充実した生活がおくれるはずだと思います。


僕が描く図面には、お施主さんの言葉、性格、暮らしの癖、信頼が込められています。
時には線ではなく、どう見せたいかどう使いたいかをそのまま文字にして図面に描くこともあります。

氾濫した情報よりも、そんな小さな積み重ねを信じてほしい――そう願いながら、毎日図面と向き合っています。

空間の作り方

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